書評『心をつなぐコミュニケーション』上野道生

HYORON Book Review - 2019/04/20



レビュアー/上野道生
(福岡県北九州市・上野歯科医院)

 柴原由美子先生は,私たち夫婦と同級生の柴原敏昭・一代夫妻の次女で,九州大学歯学部卒業の聡明で颯爽とした歯科医師である.

 「まなざし,心,ことば,技術.それらすべてを駆使して治療に臨む」を体現している歯科医師としてつねづね期待をしていたが,さまざまな勉強を続けることで,本書『心をつなぐコミュニケーション』を見事に書き上げてしまう大変な努力家であり,いま尊敬に値する女性歯科医師である.

本書に出会って

 医療に携わる人であれば,人と接し,相手の意向を汲む対応は必要不可欠である.置かれている場所によって程度はまちまちだが,“いかに相手の意志を汲み,拾い上げて紡ぎ上げられるか”が,以後の医療の成否を決し,医療環境の構築,充実に繋がる.その結果は,一人の命や人生を救うことにも繋がるだろう.

 ところが,医療の相手は「人」であるため,電子器機を前にしているのとは違い,顔つきや表情,態度によって判断が左右され,ひどい時にはその日の天候にまで影響を受けることもある.現在では大学でもコミュニケーションの講義があるように,生身の人間が相対して意志を通じ合わせるということは,大変難しい時代になっている.

 そこへ切り込まれたのが本書である.ちょっとユーモラスな可愛らしいキャラクター(アシスタントの“人間くん”)により,一瞬でその場面の設定が飲み込め,対応策がわかるようになっている.時々くすっと笑いながらも,心にすとんと入ってくるような単純な線で書かれているイラストと簡潔な文章の構成に,いつの間にか引き込まれていた.

人と向き合うことを教えてくれる

 現在は“対患者さん”だけでなく,院内コミュニケーションも問題になっている.スタッフが退職していく大きな理由のひとつとして院内での人間関係が挙げられ,しかも“対院長”といわれると,日々スタッフとの年が離れていく私たちの世代は惑いばかりが生じる.まだ臨床を続けていくのであれば,「もう今さら」といえる年代のわれわれにこそ,いま一度医療の原点ともいえる「人と向き合う」ことの大切さを,本書は教えてくれている.
 文中に出てくるさまざまなアドバイスの中でも,「“あなたは大切な人です”と思って関わる」「“言い訳”を受け止める」「感謝の気持ちを伝える」や,特に「心は顔に表れる」は,昔からいわれていることではあるが,改めてわかりやすく具体的に説明されていることに感心させられた.“人間くん”たちのユーモラスな表情・表現で,読み手の心が軽くなるのも,本書の特徴である.

 読み終えて振り返ると,本書の根底に流れているのは,人への優しさであると思われる.たとえば,「心の抵抗が少ない“提案”のコツ」は,歯科治療での場面に留まらず,日々の中で何かしらの提案を行わなければならない人に対して,基本的にどう考えたら良いのかを教えてくれているようである.普段の生活でも,苦手な相手に対しても,「コミュニケーションの基本」を学び「心」や「考え方」を整えることは,何より「生きやすく」してくれる素晴らしいものであると.

 久しぶりに出会った“一気に読み込むことのできる一冊”であった.老若男女を問わず,院内にぜひ一冊備えておいて,折にふれ目を通してほしい,医療人必読の書である.


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