書評 増刊『接着・機能性材料を活用した歯髄保護』坪田有史

HYORON Book Review - 2020/11/09

レビュアー/坪田有史

(東京都・坪田デンタルクリニック)

 
 2019年12月「象牙質レジンコーティング法」が保険収載された.本技術は間接修復の際,切削によって露出した象牙質面に接着材料を使用してコーティングし,象牙質を外来刺激から遮断し,象牙質のみならず歯髄保護を目的として従来から臨床応用されてきた技術である.この技術を保険収載するため,一般社団法人日本接着歯学会は,医療技術評価提案書を作成,歯科医学会を通して厚生労働省に提出した.その結果,「ハイブリッドコートⅡ」(サンメディカル)が特定保険材料として最初に承認され,保険収載に至った.すなわち,世界をリードしてきたといえるわが国の接着歯学が「くっつける接着」から「封鎖して歯を守る接着」へ進み,国民の歯を守ることへさらに前進したといえ,その価値は高い.


 本書の目的は,編者による序文を引用すると「Dentin/pulp complex(象牙質−歯髄複合体)の考え方が提唱されて以来,象牙質が口腔に露出した時点で,歯髄保護を考える視点が受け入れられてきました.歯髄保護は学術的にはう蝕学,保存修復学,歯内療法学の接点ともいうべきトピックスであり,本書の最大の特徴は,この3領域からの複合的な視座で,さまざまなステージの歯髄保護を基礎研究,臨床研究,そして臨床症例から詳細に検討している点です.とりわけ,最新の接着材料と機能性材料を活用した歯髄保護に焦点を当て,象牙質・歯髄を守り,痛みのない臨床のための確かなテクニックを身につけることを目的としています」と記載されている.
 インターネットなどで患者サイドが簡単にさまざまな情報を入手できる現在,私のクリニックに来院される患者は,う蝕治療において「治療中も治療後も痛みがない」「健康な歯を削らない」「歯の神経を取らない」ことを希望される方が少なくない.これらの患者の希望に応えるため,最新の接着材料と機能性材料を活用した歯髄保護は,生物学的なバックグラウンドを十分に理解したうえで,備えるべき必須のテクニックといえる.


 本書の項目は,抜粋すると「Dentin/pulp complex」「可逆性または不可逆性歯髄炎の診査・診断」「接着による歯髄保護―Super Tooth形成による確実な封鎖」「レジンコーティング法―接着の信頼性」「生活歯の支台歯形成に対するコーティングの臨床(保険収載)」「象牙質知覚過敏への対応」「深在性う蝕のCR充塡に裏層は必要ない」「深在性う蝕での歯髄温存療法」「MTAによる歯髄保護」「MTAによる直接覆髄」「Tooth wearについて」「う蝕治療ガイドラインの活用」などについて詳細な解説がなされている.とくに特筆すべき点として,すべての内容が,日本歯科保存学会編纂の「う蝕治療ガイドライン」の方針に従っており,臨床エビデンスに裏付けられた解説がなされていることが大きな特徴であり,すべての臨床医にとって高い信頼性を有する内容となっている.
 とくに接着による歯髄保護としてレジンコーティング法について,編著者である二階堂先生が,その機序とその有効性,そして臨床ステップを理解しやすい図を多く示して詳細に解説されている.また,複数の著者が多くの臨床写真を用いて実際のテクニックを示していて理解しやすかった.一方,臨床応用する機会が多くなった「MTA」について,歯髄保護,さらに直接覆髄に対して,基礎的視点からの解説から,エビデンスを示しながらの臨床の実際までの記載があり,非常に参考になった.


 「象牙質レジンコーティング法」が保険収載されたタイミングで,臨床で遭遇するさまざまなケースに対して「歯髄保護」を通じて基礎的,ならびに臨床的視点から研究,臨床におけるエキスパートの先生方が詳細な解説を行っている.1本の歯の歯髄を守り,その結果,歯の長期保存を目指し,本書を参考にして日常臨床のステップアップに繋がることを強く希望します.

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加