書評 別冊『クリニカルデジタルデンティストリー』荒井昌海

HYORON Book Review - 2020/05/21



レビュアー/荒井昌海
東京都中野区・エムズ歯科クリニック

変化を迫られる2020年

2020年,本当ならオリンピックイヤーで,日本は熱狂に包まれるはずだった.多くの来日客を想定してたくさんのホテルが開業し,飲食店もそれぞれが準備や設備投資をして,その開幕を待っていた.

そこから一転,COVID-19の影響で私たちは前例のない自粛体制となり,生活スタイルは一変した.経済は大きく減速し,緊急事態宣言が発せられた,国民全員が手洗い・消毒の意識を高く持つようになった.

そしてまた,ワークスタイルも変わろうとしている.在宅でできることはリモートで行い,会議や打ち合わせはWEBを使った取り組みが始まっている.私たちは今まで使っていなかったデジタルシステムを強制的に使用する状況に追い込まれたが,その恩恵も感じ始めている.

おそらくこれらのシステムのいくつかは,COVID-19終息後もそのまま使われ続けるであろう.この世には私たちが知らないだけで,使ってみたら有効性の高いデジタルシステムがたくさんあることに気づかされた.

歯科医院とデジタル

歯科におけるデジタル化においても同じことが言えないだろうか.ここ10年で急速に進んだこともあって,私たちはその情報の整理に苦心している.

さまざまな機器がデジタル化され,ネットワークでリンクしているがその全容を理解できている人はかなり少ないのではないかと思っている.なぜならば昨今,デジタル機器は診療スペース(フロントオフィス)だけでなく,人事や経理のような事務作業(バックオフィス)までが一つのものとして繋がり始めている.極端に言えば,診療内容電子カルテ入力から患者説明用資料の作成さらにはスタッフの給与振り込み・確定申告までを全自動で一本化しようという動きまである.

われわれは少なくとも診療スペース(フロントオフィス)の中だけでもきちんと理解し,総合的なデジタルデンティストリーのノウハウを身に着けたい.

歯科のデジタル化を理解する一冊

今回,このタイミングで出版された本書はこのフロントオフィスのデジタル化の理解に必要なすべての知識を体系的にまとめている.CAD/CAMはもちろん,CTやマイクロスコープ,そして電子カルテや患者説明用ソフトまでが網羅され,熟読すれば今の一番新しいポジションに知識を到達させることができる.

特に臨床の部分では,これから必須になってくる3Dプリンターや矯正治療の項目が興味深い.それほど遠くない未来,臨床は必ずこの方向に進むので,今のうちに予習を兼ねて読んでおくことをお勧めしたい.また,デジタル顎運動についても現在の状況がきちんと整理されており,とてもわかりやすい.私はCAD/CAMシステムの最後の要石は顎運動とのリンクだと思っている.ぜひ今後の研究開発に期待したい.

ソフトウェア時代のために

来年には次世代型ネットワーク・5Gが本格的に運用開始となる.これからの10年,私たちはさらにデジタルの影響を受けながら診療を行うことになるだろう.今後のポイントはソフトウェアである.ハードウェアではない.物理的な制約もあるハードウェアとは違い,ソフトウェアの進化がとどまることはない.「(価格や進化が)落ち着いたら取り入れよう」と考えていたら,いつまでも取り入れられない.

ぜひ,本書でいま一番新しいポジションに知識をアップデートして,日々の臨床に活かしていただきたい.

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