書評『これでわかる! 各種矯正装置の特徴と使い方』石谷徳人

HYORON Book Review - 2017/07/20



レビュアー/石谷徳人
(鹿児島県姶良市/イシタニ小児・矯正歯科クリニック日本小児歯科学会 専門医・指導医)

小児歯科医療の中心は咬合育成へ

 小児う蝕の減少に伴い,小児歯科医療に対する社会的要求も変化し,現在では咬合育成がその中心となった.具体的には,う蝕,歯周病予防から口腔習癖改善等を含めた包括的な口腔管理の中で,機能的,形態的に健全な永久歯列咬合へと導くことである.そのため,小児の歯並びやかみ合わせの異常に対して,かかりつけ歯科医においても小児期からの咬合誘導(早期治療)が広く行われるようになった.地域におけるかかりつけ歯科医が適切な早期治療を提供できれば,患者にとって大変幸せなことである.

早期治療を取り巻く状況は厳しくなっている

 かかりつけ歯科医によってさまざまな矯正装置による早期治療が行われるようになった一方で,一部においてゴールの見えない,場当たり的な早期治療が見受けられ,テレビ,新聞,雑誌,インターネットにおいても治療トラブルが取り上げられるようになった.これらの状況は,かかりつけ歯科医がこれまで以上に正しい知識とスキルを身に付けたうえで,慎重に早期治療を行わなければならないことへの警鐘と受け止めるべきである.

矯正装置への理解不足が招く治療トラブルも

 早期治療に限らず矯正装置の選択は重要な意味を持つため,矯正歯科医であっても決して術者の感覚や経験だけで行えるものではない.しかし,かかりつけ歯科医の中には「はじめに矯正装置ありき」と言わんばかりに,特定の矯正装置を十分な診査もせずに多くの患者に用いていることがある.喩えるならば,医師が患者の診察をする前から処方薬を決めているのと同じであり,医療行為としてあまりに危険なことである.

 さらに,各種矯正装置がどの不正咬合要因にアプローチできるかの十分な理解もなく,単に「患者の前歯が出ているから」とか,「逆被蓋だから」という表面的な理由によって使用することは,安易でブラックボックス的な治療であり,治療トラブルにつながっている,といえる.

矯正装置を学ぶ最適の書
 早期治療で用いる矯正装置は数多く,各種装置に適応症とその限界があり,患者の口腔内外の状況や協力度などを総合的に判断して選択されるべきものである.つまり,このことは診査・分析・診断を経て矯正装置の選択がなされなければならないということを意味している.編者の里見先生も,治療の成否の7~8割は診断力で決まる,と述べている.その点に十分に留意して本書を活用すれば,矯正装置を学ぶうえで最適な書になるであろう.

 また,本書は日常臨床でよく用いられる矯正装置を中心に概要,構成,症例,適応症,装着法,調整方法,製作方法が,とてもわかりやすくまとめられており読みやすい.さらに,矯正装置を製作するが,チェアサイドで実際の症例を見る機会が少ない歯科技工士にも本書の構成は大変わかりやすいし,ぜひおすすめしたい.

責任ある早期治療を実践するための1冊に
 監修者の町田先生,編者の関崎先生も述べているように,かかりつけ歯科医が安易な気持ちで子どもたちの歯並びやかみ合わせの異常に介入することがあってはならない.臨床医としての責任を果たすためにも,まず自らの力で臨床に関する書籍を熟読し,知識と技術を身に付ける姿勢が大切であると考える.

 本書によって,多くの読者が執筆陣の臨床への熱い思いを受け止め,早期治療に対する正しい知識の吸収とスキルアップに向けて新たな一歩を踏み出す1冊にしていただきたいと思う.


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