書評『別冊2019 歯科診療の幅を広げる医科との連携』別部智司

HYORON Book Review - 2019/06/20



レビュアー/別部智司
(神奈川県横浜市・別部歯科医院/神奈川歯科大学大学院 客員教授/鶴見大学歯学部 臨床教授)

医科歯科連携が必須の時代

 現在の疾病構造は,高齢化が進み有病者の割合が増加していることで変化してきている.また,平成29年の改正医療法によって医療安全に関する医療者側への施策が進められていることから,“ 安心・安全な医療 ”への関心が高まってきた.さらに歯学部教育では,これまであまり行われてこなかった全身管理の教育が漸増している.これらに伴い,歯科診療報酬でも,全身疾患を有する患者に対する項目に点数が付けられるなどの動きがみられ,安心・安全な歯科医療に向けた動きに呼応している.

 かつての歯科はう蝕や歯周病による欠損が多い時代であったため補綴・修復中心であった.しかし,国が「健康日本21」内において目標とした「DMF 歯数の減少」や,日本歯科医師会の掲げた「8020運動」の成果により,高齢者であっても残存歯を多く残した患者が増えてきた.

 さらにわが国は,医療の発展に伴い世界一の長寿国になったが,同時に来院患者の全身疾患保有率は増加し,医療事故の懸念も増大している.

 治療に伴う偶発症を回避して,安心・安全な歯科医療を行うことを目指し,医科歯科連携診療が推進されている.前述のように,この連携に対する歯科保険点数が設けられ,国を挙げて安心・安全の診療体制の構築を推進している.

難しい算定要件を具体的に解説

 しかし,保険算定の要件には書類の作成が必要であり,歯科医師が苦手意識を抱きやすく,ハードルが高いように感じられる.

 本書では,医科歯科連携の保険算定を積極的に行えるように,医科との連携に関わる代表的な10項目を取り上げ,具体的な患者への対応から文書作成のポイントまで網羅されて
おり,医科歯科連携の実践書といえる内容である.

医科歯科連携のエキスパートが具体的に解説した実用書

 本書の執筆陣にはわが国を代表する医科歯科連携のエキスパートが揃っていることも心強い.

 内容をみると,まずは周術期口腔機能管理の保険導入の経緯をはじめ,医科歯科連携が推進されてきた社会的背景の解説から始まる.次に医科との連携が必要な全身疾患の概要とその対応の注意点が紹介された後,医科歯科連携に関する10項目が取り上げられている.具体的には,診療情報提供料(Ⅰ)と診療情報連携共有料の相違,糖尿病患者への歯
周治療,全身疾患を有する患者へのSPT,歯科金属アレルギー患者の対応が具体的連携例とともに紹介されている.

 また,歯科特定疾患療養管理料の算定要件,口腔内装置が必要な睡眠時無呼吸症候群,周術期等口腔機能管理などに関する事例と対応の要点,さらに歯科標榜のない病院と地域歯科診療所との連携,医療連携を促進する歯科治療時医療管理料の意義と実際,総合医療管理加算の算定に関する具体的手順が解説されている.

 そして本書のまとめとして,歯科保険医療の現場で起こる医科歯科連携の課題について,さまざまな場面を想定して,その問題解決のヒントとなる解説が編者より丁寧に書かれている.

 本書は高齢者,有病者の歯科受診が増加している現状で,患者の安全な歯科治療を期するために,医科担当医や専門医とどのように上手に連携していくか,「医科歯科連携」を実践するための活用本として必読の一冊である.


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