書評『感染根管治療 Retreatment』三橋 純

HYORON Book Review - 2019/07/23



レビュアー/三橋 純
(東京都世田谷区/医療法人社団 顕歯会 デンタルみつはし)

待望のシリーズ第5弾

「Retreatment は与えられた歯の状態で処置を行うことが求められるため,不利な条件での歯の治療となる.野球でたとえるなら敗戦処理投手に近い役回りであり,いかに早急な敗戦,つまり抜歯を避けるかが目標になる」(234頁より)

 そう,敗戦処理に日夜取り組んでいるのが日本の歯科医師の現実である.頼りの味方エースを打ち込んでマウンドから引き摺り降ろした強力相手打線を抑えて,味方の反撃を待つには緻密な状況分析と判断,そして多くの球種の中から一球を選んで投げ込む的確な戦略と技術が必要である.半端な知識では打ち込まれてしまうだろう.

 本書は『臨床根管解剖』『根尖病変』『偶発症・難症例への対応』『抜髄Initial Treatment』に続く,“歯内療法 成功への道”シリーズの第5弾となる感染根管治療(Retreatment)編である.歯を保存するため,敗戦濃厚な試合で投げ続けている臨床医に強力なコーチ陣と木ノ本先生が監督として,逆転に導く戦略をまとめた一冊である.

逆転に導くための戦略

 感染根管とは自然治癒のために必須の血流が途絶えた根管の中に感染が広がってしまった状態を示すが,なぜその治療が難しいのか.ファイルを入れて擦れば感染源がすべて除去できるほど根管は単純な構造ではない.まずは根管の現状を知らなければならない.ともすると技術論だけを知りたがる臨床医に,本書では根管壁を形成している象牙細管の構造,そこに巣くう細菌,ウイルス,真菌などの特徴,弱点を第1~3章に分けて解説してくれる.除去すべき相手がどこにどのように棲息しながら増えるのか,そして何が弱点なのかを知っているほうが勝負に強くなるのは当たり前である.

 そもそも治療すべき相手なのかどうかを判断せずに試合に挑むことがないように,診断のディシジョンツリーを第4・5章で教えてくれる.対戦相手の状況を画像診断で知り,どこに溜まりやすいのか,逃げ込みやすいのかを知っていれば投げるべき球種,コースも自ずから決まってくるものだが,第6~8章で根管に辿り着くまでのクラウンやコアの除去法,ファイリングすべきポイントを示して効率的に感染源を除去できるように解説してくれる.

 そして第9章以降では,最新の洗浄法や,臨床的に数多く遭遇する根尖孔が破壊され広く開いてしまっている場合の対処法を2つ詳述し,さらに感染根管治療の成功率を上げるための病理学的・細菌学的検査法やレーザー,高周波治療器を用いた根管治療法,粘膜側からではなく根管内から行う歯根端切除術であるInternal Apicoectomy など,新しい球種と言うべき最新の治療方法を具体的に解説してくれている.

感染根管と戦うために

 本書は,われわれ臨床医が感染根管と戦う前に知っておくべき基礎知識から具体的な治療法のポイントまでを効率的にまとめた一冊である.通読を強くお勧めするが,目次にある章ごとの“ポイント”を繰ってハウツー本的にも使えそうである.

 木ノ本先生が大阪人だからなのかもしれないが,執筆者の多くが関西人とお見受けした.せやから,本書は最新情報がぎょうさん詰まってるんやな.

PDF版

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